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prologue

大量の紙が吹き付ける中、盲目の男が静かに目をあける。場所は空港の屋根の上。
何枚もの白い紙が足下から巻き上がるように風に飛ばされて散っていくのを眺めている。

甍「──── イラカ・オールドマンより、報告する。“CRYPT392計画”は全て、ただの白紙だ」

BFK「え〜〜〜ッ!?!?マジ!?!?!?」
※液晶にめちゃくちゃ寄っている

リタ「ほ、本当に白紙なんですか?たとえば、もっと何か…」

BFK「何かって何ぃ」

リタ「こう、あぶり出しとか…」

BFK「ハァ〜〜〜〜!?」

ワト「イマドキそんなめんどくせーことやる奴いるかぁ〜??」

甍「信じられねえならご自慢の"6th-C"から映像解析でもしたらどうだ」

【6th-C(シックス・シー):甍の目に嵌まっているリタのコンタクト型高解析電子カメラ。改良版は6th-C:A(またはアージュナー)と呼ばれる。第3の目の意味。】

リタ「ぅ…っ」
※甍の瞳越しに映像を見たリタがキーボードを打って解析するも、何も引っかからず苦い顔

グラ「うーーーわ…ここまでやって無駄骨かよ。」

スト「骨折り損のくたびれもうけとはこのことだな!はっはっは!」

グラ「おー、よく知ってたなそんな難しい言葉」

リタ「申し訳ありませんが、飛散した紙を念のため回収してもらえますか」

ワト「うえええぇっ!あれ全部回収させんのか!?」

アル「わかったっすよ〜〜!!」

ワト「いや、いいのかよ!」

BFK「は〜〜〜また振り出しかあ…やっとの思いで国青団の瀕死のデータベースから発掘した化石級の断片データに高性能リストレーションかけて奇跡の大復活!白亜の恐竜の骨でも見つけた気になってたんだけどなあ〜〜〜」

スト「ハッカーから考古学者に転職するか?」

BFK「まーちょっと転職も考えたくなるわな」
※タバコくわえながら

グラ「その化石を物理的に掘り起こしたの俺らなんだけど?あの気味悪い廃墟と地下構造の何百m下まで潜ったと思ってやがんだ〜???」

ワト「んでこのあとどうすんの?」

グラ「えっ無視なの?」

リタ「証拠品の回収が終わり次第、各自帰還してください。空港に話は通してありますので、6th-Cのコード認証のみで審査は完了するはずです。僕はその白紙を鑑識に回す準備をしておきます」

甍「…これより帰投する」

グラ「は〜俺たちも回収されるとするかあ〜〜」

一機の飛行機が轟音を立てながら甍の頭上を飛んでいく。甍はシルエット。そちらを見ない。
機内の様子のシーンに移る。機内で髪の長い男が少し気分悪そうにしている。頭をおさえている。

モブCA「…お客様、体調が優れませんか?」

男「………………、」

モブ男A「…お気になさらず」

モブ男B〜E「…………」

モブCA「……………?」

男「………!……………、……………」

※心臓のあたりをおさえて苦しそうにする男。
どくりと血が巡るような描写があり、目を見開いたり、荒い呼吸を落ち着けようと目を閉じて苦悶の表情をする。眠りの中に落ちるように暗転。



【 CRYPT-392 】



飛行機が着陸する映像

グライフは空港のラウンジで青いクリームソーダを楽しんでいる

グラ「しっかしなあ…よりによって何にも書かれてない白紙とは…しかもご丁寧にアタッシュケースもびっくり箱仕様に改造してあったんだろ?……まあなんつうか、あの男のやりそうなことだよな」

甍「ヤツの悪趣味は今に始まったことじゃあねえ」

グラ「そりゃ、そうだけどよ…なんかさ、あいつがまだどっかで生きてるみたいで、気味悪いな。縁起でもねえけど」

甍「………お前、あの廃墟に行って“何か”思い出さなかったか」

グラ「何か?って…そりゃ、あの島や廃墟を見て何も思い出さないヤツは、このチームにいねえだろ…」

甍「…………そうか」

空港内。通路ですれ違いざまに先程の体調不良の男とぶつかる。男がふらついて倒れる。

甍「………!?」
 「…おい、」

男「…ゔ、あ……ぁ…っ!!」

倒れた男が頭をおさえ、苦しんでいる。通信先のグライフが異常に気付く。

グラ「おい?どうした?」

男が倒れているリアルタイムの映像をグライフの6th-Cデバイスに転送する甍。送信された映像を見てグライフの顔色が変わる。飲み掛けのクリームソーダを置いて急いで席を外すグライフ。

甍「発作を起こした病人の可能性がある。今すぐここへ…」

最後まで言おうとした時、男は甍の服の裾を掴んで苦しみ泣きながら懇願する。

男「…Gạ͒…zh………f…
Gạ͒zhfp¡̣͒vg¡̣v……(助けて…)
…Gạ͒zh…fp¡̣͒…vg¡̣v……(…助けて……)」

甍「───、お前、その言葉をどこで」

その時、前方から剣を抜く男が2人見える。後方からも剣を構えた2人、左右から1人ずつに囲まれる。警戒する甍。それを見た他の利用客が悲鳴を上げながらパニックで逃げ始める。
甍は頭の痛みに耐える男とアタッシュケースを抱え、背後の槍を抜き、ぐるりと一周ぶん回して牽制する。

甍「…搭乗チケットの争奪戦でも始まったらしいな。
悪いが、こちとらなにひとつ渡す気はないぜ。
かかってくるならその人生………片道切符にする覚悟で来い」

敵が一斉に襲いかかり、甍は槍一本でしばらく大立ち回り。何人かを袈裟懸けに斬り倒す。敵が半分ほどになったところで、逃げる客にもみくちゃにされながらグライフが到着する。倒されている敵にぎょっとする。

グラ「おいおいおいなんだこの状況はっ…!?うぉっ」
※甍にアタッシュケースを投げつけられ驚くグライフ

甍「この男を連れて医務室へ行け。7分後に合流する」

グラ「お、おう、わかっ………!?」

敵の1人がグライフが抱えようとした男を目掛けて攻撃を仕掛けてくる。甍がそれを寸手のところで阻止する。

甍「…………何の真似だ?
  …てめえら、どうやら…“仲間”を奪い返そうとしているわけじゃ、ないらしいな」

グラ「まさか、標的は…」
※気を失っている男を一瞬映す

甍「……早く行けッ、手遅れになるぜッ!」

グラ「!、…わかったッ」

グライフが男とアタッシュケースを抱えて走り出す。後を追おうとしたり立ちあがろうとする男達に甍がもう一本槍を抜いて牽制する。

甍「………管制局、聞こえるか。いまリアルタイムで転送している奴らの身元を検索しろ。“CRYPT-392計画”に関する重要参考人だ」

リタ「何ですって…!?」

BFK「へえ〜、なになに面白くなってきたじゃん♡」

甍「……さて…白紙の計画書よりよほど有益な情報が得られそうだ。てめえらには…全て、洗いざらい吐いてもらうぜ」


※シーン転換、グライフの状況


モブ空港職員「皆さん落ち着いて避難してください!当空港でテロ事件が発生した可能性があります、職員の指示に従い、落ち着いて避難を…!」

ぞろぞろと焦って避難する人の流れに逆らってグライフが男を担ぎ、アタッシュケースを持ってドタドタ走って医務室に連れて行く。

グライフ「急患だ!!通してくれッ!!!」

自動ドアが開くのも惜しいような速さで医務室に滑り込み、診察受付を無視して奥の部屋に駆け込んで行く。

モブ受付「!?お客様!?困ります、ここは一般のお客様は立ち入り禁止で…!」

グラ「万国警衛機構の人間だ。急患がいる。処置室を貸してくれ。俺は医者だ。」


※シーン転換、甍の戦闘シーン


剣を避ける甍。避けた反動を使って槍で斬りつける。最後の1人(モブ男A)を残して5人の男が床に倒れ伏すが全員息はある。

甍がモブ男Aにティヴェラムヴ語で話しかける。

甍「致命傷にはしていない。大人しく情報を渡せば、命までとるつもりはない。…オレの言葉が分かるな?」

モブ男A「……………」

モブ男はスッと片手を上げ、甍は怪訝な顔をする。

モブ男A「“全ては、新たなる世界の為に!”」

言うと、甍の周囲でブチブチッと音がする。

甍(…コイツら、全員
  自分の舌を噛み切りやがった……!)

口から血を流すモブ達の映像。

モブ男A「…あのお方は死ななくてはならない。…私達は、それ以上の情報を渡すことはない」

甍「あの男は、てめえらの仲間じゃねえのか」


※シーン一瞬転換、グライフの処置室→管制局→甍の局面


モブ医者「心拍上昇中…80…100…120…!」

グラ「…な、んだよ、これ……おい見たことねえぞ、
   こんな症状…!」

全身に血管が浮き出た男の映像が映る

リタ「こちらでも調べていますが、類似した症例がひとつも出てきません…恐らく静脈瘤の類いかと思いますが、こんなに全身に浮き出るなんて…」

BFK「こっちも全滅。襲ってきたアサシンおじさんたちの犯罪履歴は全員ひとつもヒットしないわあ。軍人のツラかと思ったけど、それも検索結果はゼロ。
唯一空港のデータベースに潜って出入国管理記録はヒットしたものの、パスポートはほぼ白紙。入国チェックは全員一緒のタイミングで受けてるけど、正直なんでこれで審査通れたのかマジで謎すぎるでしょ」

甍「…………
  …なぜ殺す必要がある」

モブ男A「それがあのお方の運命だ。あのお方が死の運命に出会った時、それは、確実に遂行されなくてはならない…!」

モブ男Aが走り出す。甍がすかさず追いかける。

甍(…身体能力がかなり高い。軍人であればかなりの精鋭だが、軍人でないならば、どこかの武装勢力の出身か……)

モブ男が通路から飛び降りて一階へ降りる。甍もそれを追って飛び降りる。

甍(…まずい、この通路の先は…医務室に繋がる…!)
 「……チッ…厄介な野郎共に出くわしたもんだ」

反響定位デバイスを使い、辺りをエコーロケーションする。天井上の構造、医務室へ走る男、医務室内部、全て見える。槍を使って、天井のパネルを数枚切り落とし、穴を開ける。

甍「…雑なつくりの空港で助かったぜ」

※シーン転換、敵(モブA目線)

モブAが走りながら背後から追ってきていないことを確認しつつ、医務室を探している。自動ドアのある医務室を見つけて入る。

モブ医者「あっ…いらっしゃいませ、こちらは医務室でございます。お客様、どこか具合が…」

モブAがすらりと剣を引き抜き、きゃあーっと悲鳴が上がる。その時、医務室の天井から甍がドガン!と大きな音を立てて降りてくる。驚いたモブAの姿をエコーロケーションが捉える。隙をついて甍はモブAの手を蹴り上げ、持っていた剣を天井に刺さらせると、間髪を入れずに素手で襲い掛かる。モブAの口の中に両手を突っ込むと、奥歯から信管を引き抜いた。

甍「…てめえ、身体に爆弾を仕込んでやがるな」

モブ医者達が「ひいっ…!ば、爆弾…!?!?」と怯える。モブAはニッと笑う。

モブA「…貴様、やはり盲目か。障害のある身でありながら、ここまで戦えれば大したものだ。だが、わたしの体内の爆弾は…信管を抜けば、時限式に切り替わる。」

甍「……………!」

モブAは甍の服の裾を掴むが、甍は瞬時にモブAを医務室の外に蹴り出す。

甍「全員物影で伏せろッッッ!!!!」

振り返って叫んだあと、医務室のモブ医者たちが待合室のソファーの裏や受付の中などに隠れ、甍も受付の陰に隠れる。モブAが血を吐きながら再び医務室へ駆け寄る。自動ドアが閉まるか閉まらないかの瞬間に爆発が起きて、ドアが吹き飛ぶ。医務室のエントランスが血塗れになる。甍はそれを黙って見ている。

ガチャっと処置室のドアが開く音がして、グライフと数人の医者が甍の方を見る。

グラ「さっき、すごい衝撃がしたが…何だったんだ?」

甍「…容態は」

グラ「……手の施しようがない。見たことのない症例だ。全身に浮き上がる血管の原因もわからない。ひとまず鎮静剤を打ってはみたが、血圧も異常に高いまま。本人の意識も混濁している。これ以上は病院に運んで静密な検査をしなけりゃあ…」

甍が男の近く、医務室の隔離ベールまで近づいた瞬間、男の身体に急激に血が巡る。もう1段階上のアラームがけたたましく鳴る。

モブ医者「血圧が更に急上昇!220…230…250!?」

男が喀血し、更に背中からも出血する。

グラ「おいおいおいおい…!!何で背中が裂けてんだ!?さっきまで何ともなかっただろ…!!っ、量が多すぎる!止血剤持って来い!!!輸血の準備もだ!!」

モブ医者「先生、血液型のチェックの結果が、まだ…」

グラ「……!クソッ!」

甍が自分の腕をビッとまくる。

甍「時間がねえならオレの血を使え。…O型なら問題ねえはずだ」

グラ「…………、」
  「…コイツの血を使ってくれ。輸血と並行して止血と縫合手術を行う」

モブ医者「はいっ!!」

モブ医者に指示をするグライフの声を聞き、輸血の準備をされながら、意識朦朧としている男の顔を甍が見る。そしてティヴェラムヴ語で話しかけ始める。

甍「…Gạ͒zhfp¡̣͒vg¡̣v(助けて)………てめえがそう言ったから、助けたんだぜ」

男の虚な目が少しだけ見開かれる。

甍「助けられておいてこのまま死ぬなんざ、許さん。───────生きろ。」

モブ医者がその様子を見ていたが、男の血管の隆起が引いていくことに気付く。

モブ医者「……!先生!血管が……!」

グラ「………っそだろ…何だったんだ……」

甍「…背中の傷は」

グラ「まだ血が止まっちゃいない。時間はかかるが…必ず縫合する」

甍「…任せたぜ」

長い髪の男を見下ろし、その顔を見る甍

甍(…お前は、一体…何者だ)



ーーープロローグ終了ーーー

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